周辺研究の背景
計算機性能の飛躍的な向上により,モデルベース開発,ディジタルツイン,レプリカと呼ばれるシミュレーション技術の活用が広がっています。コアプロジェクトが取り組む技術開発においても,ディジタルシミュレーションと実機検証を橋渡しする技術として,Hardware in the loop(HIL)シミュレーションが活用されています。
直流送電技術や関連する電力系統用パワーエレクトロニクス技術の研究開発においても,シミュレーション技術の重要性が高まりつつありますが,これらに関する研究教育環境が大学の研究室レベルで必ずしも十分に整備されている状況とはいえません。各研究室の特徴を活かしつつ,こうした高度な研究教育環境を整備し,研究教育拠点としての機能を強化することを目的として,研究室ごとにそれぞれ研究を行っています。また,研究で得られた成果は今後,国内外の学会,論文投稿等で発表・共有するとともに,本活動の認知度を高める取り組みを行っていく予定です。
周辺研究の内容
直流送電と島嶼との協調制御手法の研究
直流送電システムは,交流系統間の連系強化の用途だけではなく,遠隔地の再生可能エネルギーから需要地への大容量送電の用途にも有力な手段です。大規模な太陽光発電や風力発電が建設された島嶼では,再生可能エネルギーの発電電力を,直流送電システムを通じて本土系統に供給するとともに,夜間や悪天候時には,直流送電システムを通じて本土系統から島嶼へ逆に供給する運用が可能となります。これにより,島嶼系統内のディーゼル発電機等の化石燃料を用いる電源への依存度の削減と蓄電池の設置容量の削減を通じて,CO2発生量や設備コストの削減および供給信頼度向上を図ることが可能となります。
こうした島嶼と本土との双方向送電用途における直流送電システムは,島嶼の発電機や再生可能エネルギーと協調しながら,島嶼系統の電圧や周波数の調整能力を担う必要があります。本研究では,島嶼と本土との双方向送電用途における直流送電システムと,離島系統との協調制御手法について,制御手法を提案するとともに,リアルタイムシミュレータを用いたシミュレーションを実施し,制御手法の有効性を確認するものです。
電力系統制御のための交直変換器制御系の研究
多端子直流送電システムの電力系統との連系点で使用される交直変換器は,その変換器容量の大きさと高い制御性から,単に風力発電の発電電力を陸上に送るだけでなく,電力系統の安定化制御に優れた効果が期待されます。これまでに電力系統の同期化力を高めるための交直変換器制御についての研究実績はありますが,計算機上の理想モデルに基づくシミュレーション解析での検証に留まっていました。
また,実系統内での大容量変換器の制御では,系統との相互干渉や,電圧・周波数が不安定な状況下での変換器制御の検証が必要となることから,実験室内での単なる変換器制御試験では十分な検証とはいえません。そこで,評価環境を短期に整備して,より実用的な試験を行うために,リアルタイムシミュレータを導入し,変換器制御系の動作検証を行うこととしています。
直流送電用自励変換器の制御系とリアルタイムシミュレーション
直流送電ミニモデル試験設備とリアルタイムシミュレータの連成解析の研究
直流送電システムは,交流系統の擾乱の影響を大きく受けます。また,直流送電の制御や事故が交流系統に影響を及ぼします。つまり,直流送電と交流系統の間の相互作用が生じます。ところが,直流送電と交流系統を構築して相互作用を実験的に模擬することは,多くの設備を必要とするため容易ではありません。
そこで,本研究では,直流送電はミニモデル試験設備で構成し,連系先の交流系統はリアルタイムシミュレータにより模擬した試験設備を構築します。これにより,交流系統を実験設備として構築することなく,交流系統の擾乱が直流送電に与える影響の評価や,直流送電の制御や事故が交流系統に与える影響の評価を可能とします。直流送電はミニモデルにより実機に近い動特性を詳細に模擬することができ,交流系統はリアルタイムシミュレータにより柔軟に構成を変更できる点が特長です。
直流送電ミニモデル試験設備とリアルタイムシミュレータの連成解析